「 罰 盃 」





 舌の上で、それがいっそう熱く、大きくなった。
それでもテマリはまた、舌先で筋ばった裏側をなぞりながら呑み込んでいく。さすがに全てを口内に納めることはできないが、根元近くまで唇が届くと、今度は吸い上げるように唇に力をこめながら先端のくびれた辺りまでそれを抜く。同じ動作の繰り返し。息が詰まり、唾液が唇からあふれ出るが、
「…は…っ」
頭上から聞こえる苦しげな吐息が、なぜか彼女をますますその行為にのめりこませる。視界は今、濃い色の布に覆われて何も見えない。だから余計に耳が聡くなっているのかもしれない。


 ―――ほんの、悪戯のつもりだった。
久しぶりの逢瀬。人通りで賑わう胡蝶街の大通りからすこし外れたところにある、小さな旅籠。急いて体を合わせるには、まだ気後れする陽の高さ。
シカマルは何となく「一局指すか」とテマリを誘った。彼女は唇の端を少し上げて承諾し、ふたりは宿の亭主から借りた棋盤を挟んで駒を進め始めた。力が拮抗しているせいか、二人の対局はいつも長くなる。今日の勝負の流れはテマリに大きく傾き、終局へ向かっていた。その時、
「この勝負をひっくり返せたら、今日はオレの言うことなんでもきいてくれるか?」
シカマルは彼女に訊いた。特に深い意味はない。投了を考えかけた自分に発破をかけるように、口をついて出た言葉だった。
「……いいぞ。ひっくり返したら、な」
勝敗の行く手に絶対の自信を持っていたテマリは、婉然とほほえんでそれを承諾した。


 ところが。
勝負はひっくり返った。テマリに油断があったのかもしれない。シカマルが起死回生の手段として張った罠の手に珍しく引っ掛かったのだ。

そして今彼女は、壁を背にしたシカマルの足の間に顔を埋め、猛るものを咥え、舐めて、彼を快感の渦中に落としこんでいる。額当て用の布で目隠しをしたまま。
 口でしてくれって言ったのはともかく……目隠しはやべェ。めちゃくちゃエロい……!
普段の半分以下になっている思考力で、シカマルは熱心に自分のものをねぶり続けているテマリを見下ろして唸った。彼女のつたない手つきと、濡れた唇の間から見え隠れする自分のものが痛いほど張りつめてくる。
もともと生真面目なテマリは、初めてのこの行為が果たして相手に快感をもたらしているのか不安なのだろう。時折顔を上げては、
「これで…いいのか?」
などと訊く。結んだ髪を乱し、頬を上気させ、唇のまわりをつやめかせた姿態が、どれほど淫靡に見えるか知りもせずに。
目隠しは、シカマルが望んだことではない。口でやってみてくれ、と頼んだ時、テマリがあまりにも顔を真っ赤にして恥ずかしがるので思いついた対策のはず……だった。それがまさか、こんな効果をもたらすとは。
 たまらなかった。すぐにでも弾け飛びそうになる欲望を、シカマルは眉間に力をこめて堪える。


 誰かに隷属するのを好むような性癖は、テマリにない。
だが、屈辱的かもしれないこの状態に夢中になっているのも確かだった。
最初は、抵抗があった。ただでさえ色事に疎い彼女は、どうすればシカマルが悦ぶのか皆目わからなかったのだ。第一、たとえ目隠しでごまかされても、恥ずかしいことにかわりはない。
仕方なく彼女は、おずおずと柔らかで妙な弾力のあるそれに触れた。一旦した約束を守らないのは、彼女の主義に反する。
両手の指で根元を支え、口を開けて先端を咥えると、それはくっと伸びたような気がした。舌で周囲をなぞれば、芯が生まれたようにだんだん硬くなってくる。不思議な反応。それ自体が意志を持っているかのように、舌を這わせる場所を変えるたび、ぴくりと震える。いつしかテマリは、より大きく反応する箇所を舌で熱心に探り始めていた。
なんだろう、この気持ちは。
 シカマルに尽くしているようで。弄んでいるのは自分のようで。
「くっ……ぁっ…」
耐えきれなげに洩れる彼の声を聞くと、テマリの体の奥がずくんと疼く。その場所に蜜が滴るのを、はっきりとテマリは自覚する。思わず彼女は膝をすり合わせた。どこにも触れられていないのに、なぜこんなに体が熱くなるのか分からない。
 ―――――これが、ほしい。逃せない熱の倦む此処を深く突いてほしい。
ごまかしようのない欲望がテマリを急かし、手で支えたものにいっそう舌をからませていく。そのままえずく寸前までぐっとまたそれを咥えこんだ時、
「も…やめ」
小さな声と共に、目隠しの上へシカマルの手が添えられた。そして軽く押される。ずるり、と口の中のものがなくなり、テマリは所在なげに体を起こした。ほとんど同時に、目隠しがぐっと上へずらされる。
 周囲はいつのまにか、夕暮れの濃い赤に染まっていた。
目の前のばつが悪そうなシカマルの顔も真っ赤に見える。テマリは口の中に溜まった唾液をこくんと飲み込み、手の甲で唇をぬぐった。
「もう、いいのか?」
彼女は思わずそう訊いていた。
「……もっとしたかったのか?」
シカマルの唇に意地の悪い笑みが浮かぶ。
「ば、ばかを言うなっ」
その行為にのめりこんでいたのを見透かされたようで、テマリは彼の前から離れようとした。その肩をシカマルが掴んで引き寄せる。
「足、開いてくれ」
すぐそばにあるテマリの耳に囁いた。
「足……?」
「そ。足開いて、膝立ちになれよ」
「どうし…」
「敗者に理由を問う権利はねェぜ」
テマリの問いかけは、ますます意地悪さを増す笑みで封じられた。
彼女は仕方なく、シカマルの足の間で膝立ちになった。視界のすこし下にはシカマルの顔があり、さらに下には、まだ屹立したままのものが見える。
 ずくん。………また、疼く。
テマリはなかなか足を開けなかった。今、足を開いたら………
「テマリ」
そう呼んで、彼女の腰にシカマルが腕をまわす。ぎゅっと抱きしめられてとまどっていると、彼の手はテマリの腰からなだらかな曲線をえがく尻、やわらかな腿へと這わされ、急に忍服の裾を潜って素肌へ差し入れられた。
「………!」
声を上げるひまもなく、その手が今度は這い上がってくる。彼女がびくっと身をふるわせると同時に、わずかに開いた腿の間から、素早くシカマルの二本の指が彼女の秘処をさぐり当てた。
「…んんっ…」
疼きに届いてくる刺激に、思わず腰が動く。下着の布地を通してもはっきりと分かってしまうに違いないぬかるみが恥ずかしく、テマリは身を固くした。
「やっぱ、濡れてる」
シカマルがテマリの顔を見上げて楽しそうに言う。
「うるさい!」
彼女は横へ視線を逸らした。
「したい、って思ったのか?」
その視界へまわりこむように、シカマルが首をかしげて訊いてくる。
「思わな……ぁあん!」
必死の否定は、秘処を弄る指のせいで甘い悲鳴に変わった。テマリの弱点を知り尽くした指は、布地の上からでも的確に敏感な小さい芽を見つけ、爪の先でカリカリとそこを掻く。同時にもう一本の指は薄い布地をよけて直接侵入してきた。こんな時は憎らしいほど器用だ。潤みきった入り口は、誘うようにその指を呑み込んでしまう。
「はぁっ…あっ…」
明らかに容量は物足りず、それでも待ち望んでいた侵入の感覚に内腿からふるえがくる。テマリはシカマルの肩に手を置き、うつむいて荒い息を数度吐いた。額に汗がにじむ。
目のふちを夕陽よりも赤く染めていく彼女の表情を見つめながら、シカマルは唇を寄せた。舌を出して、テマリの下唇をゆっくりとなぞる。彼女がそれに応えようとした時、シカマルは潜ませた指を奥へぐっと差し入れ、指の腹でぬめる内壁をこすった。
「やっ…ああ…っ!」
彼の目の前でテマリは喘ぎ、開いた唇をシカマルは舌でふさぐ。彼女の口中をまさぐりながら、指は休まずに熱い洞を責めた。テマリは膝から力が抜けそうになるのを、シカマルの肩に置いた手で何とか堪える。
シカマルが唇を離す頃には、彼の器用な指は掌のほうまでテマリの蜜で濡れていた。
「は…ぁ…」
やっと解放された唇でテマリは息をする。頭の中がぼうっと霞み、視界がにじむ。ゆるゆるとシカマルを見ると、彼はまた楽しそうにしていた。
「…ずいぶん…機嫌がいいな」
悪戯に翻弄されたくやしさで、テマリはなるべく厭味っぽく言った。それを聞いたシカマルはさらに口の端をにっと上げる。
「ああ。おまえのそういう顔、好きだ。すっげー色っぽいぜ…」
囁きながら、彼女の頬に唇を寄せる。
「ばかっ」
あまりの照れくささに、テマリはシカマルを睨む。いつからコイツはこんなに恥ずかしい台詞を吐くようになったんだろう。
「テマリ」
「何だ」
ますます不機嫌に彼女は言った。シカマルは空いた方の手で、下を指差す。
「オレ、もう限界なんスけど」
つられて落としたテマリの視線の先には、先端を濡れさせたものが反り返っていた。脈を浮かせて、苦しそうにも見える。
「挿れさせてくれよ。……ここに」
そう言ってシカマルは、テマリの胎内に留めていた指を一度深く差してから抜いた。不意の刺激に反応した柔らかい肉壁が、きゅうと収縮する。しかしそこに、絡みつくべきものはない。
「…ぁ…んっ」
最奥からこみ上げる飢餓感がテマリを追いつめる。限界なのは、彼女も同じだった。ふだんなら快楽を貪ることを遮る羞恥心が、たった今、ただシカマルのものに貫かれたいという欲望に屈した。
テマリは下着を解いて両腕をシカマルの首にまわし、片方ずつの足で彼の腰を挟んでからめた。自分の腰は上げ、シカマルの顔を胸に抱くようにして見下ろす。彼の猛るものは、彼女の花弁のすぐ下にある。
「……挿れて」
小さく、テマリがつぶやく。それは許可と言うより、懇願。
初めて見る彼女の積極的な様子に、シカマルは唾を飲みこんだ。先ほどからかった時とは比べ物にならないほど艶めいた表情。背筋がぞくりとする。
彼はテマリの細い腰に両手をあてがい、自分のものを彼女の熱い洞へ埋めこみながらぐっと引き寄せた。
「……っ、あああっ……!」
限界まで張りつめた硬いものが、テマリの胎内を突き上げてくる。焦らされた分苛烈さを増した快感に、羞恥心のかけらが砕け散った。
シカマルは背中を壁に預け、テマリの腰をつかんで上下させる。力をこめて深く、浅く。テマリはそれに合わせて、腰をくねらせた。彼女の狭い洞は容赦なく蠕動して彼のものを締めこむ。荒くなる息。時折もどかしげに交わされる口づけ。ふたりの動きが合わさると、くちゅくちゅと上がる濃い水音が増していった………。


 夕陽の赤さはいつのまにか、秘め事に没頭するふたりを隠すように、薄闇へと姿を変えていた。
当のシカマルとテマリは、激しい行為の余韻にとらわれて、身を預けあったままだ。
「………ふぅ」
シカマルがやっと、顔を上げる。テマリはまだ、彼の肩にまわした自分の腕に額をつけて顔を伏せている。
「こんなんなら、たまにはなんか賭けて指すのもいーかもな」
冗談めかして、シカマルは言った。きっと普通に頼んでも、彼女はあんな「お願い事」をきいてはくれなかっただろう。
 とその時、テマリはゆっくりと顔を上げた。
「今度は絶対勝ってやる」
まだ額に汗を浮かべて頬もうっすらと赤いが、目が本気だ。
 ――――勝ったら、いったい何の「お願い事」をされるんだ?
シカマルは楽しみなような、恐ろしいような思いで曖昧な笑みを浮かべた。






end





 甘々なふたり………………と言い張ってみる(苦笑)。
なんだか、私がシカテマでエロを書くとシカマルが恥ずかしがるテマリ姐さんをじわじわ責める展開になるのはナゼ。
私の趣味ですかやっぱり。………納得?
 「苦み」のあとがきで書いたシカマルは絶対言葉責めが好きなタイプという考察に 意外にも多くの方から賛同を頂いたのがうれしかったので(笑)、今回もこんな感じに。




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